2020年4月25日 希望が丘店NEWS
太陽食品に長年、作物を届けて下さっている、自然農法の先駆者のお一人、
小田原の石綿敏久さんを訪問し、貴重なお話しをうかがってきました。
<石綿さんのご紹介>
キウイフルーツを、日本で最初に「無肥料」で作ったことで知られる石綿さん。国内外から多くの果樹農家の方が、無肥料栽培について学びに石渡さんの畑を訪れます。
石綿さんは、昭和50年頃より自然農法を実施。念願だった国内有機JAS制度が始まり、平成13年1月には、仲間と共に有機JAS認定を取得しました。それまでは偽物が台頭し、生産者や消費者を惑わし困らせていましたが、やっと安心して生産物の販路や生産者の拡大が出来るようになり、小田原有機農法研究会を立ち上げられました。
有機農産物を作り始めた頃からの念願だった「本物の味を子ども達にも」の思い。
学校給食にみかんやキウイを提供したり、平成9年からは、地元の小学校の児童に有機稲作・米づくりの指導を続けてこられ、現在に至ります。
さらに「小田原有機の里づくり協議会」副代表として小田原の地に健やかな食文化を拡げる活動や、里山再生の取り組み、有機農法新規参入希望者への実習指導など、ご自身の畑の管理をされながら、地域や環境への保全に尽力をつくされています。
<小学校に無農薬のお米作りを指導>
私は有機、自然農法を始めて40年が経ちます。
いまから20年前にね、地元の久野小学校の無農薬のお米作りの指導を頼まれました。(息子さんが小学5年生のころ)
当時は、無農薬なんて、変わり者の農法でね、世間からずれていたんだけど、小学校から無農薬のお米作りの指導を頼まれて、え?とビックリしたのを覚えています。
なんで先生が興味を持ったのかな?と知りたくなり、当時小学5年生だった息子の社会科の教科書を見たんだよね。
そしたら、地球環境の公害のこと(オゾン層破壊、地球の温暖化など)が写真入りで載っていて、合鴨農法まで出ていたんです。今じゃ当たり前かもしれないけど、40年前から変わり者の農業と言われてきた僕にとっては、驚きだったね。
いま、子どもがね、こんな勉強をしてるのか!!と。先生が、無農薬のお米作りを指導してください、というのももっともだ、と思いました。それが最初の印象です。
<農家は減る一方>
それから20年間、地元の小学校の小学5年生に無農薬のお米づくりの指導を続けています。
わたしが子どもの頃は、学校の生徒の半分が農家の子だったね。それが20年前はクラスに5人、いまは、親が農家の子というのは、ほぼいません。農家が減っているのに、有機農法をする人はもっと少ないよね。
有機農法は、やろうと思えば、今は周りの人が協力、理解をもってくれる環境だから、やれる時代である。ただね、技術は別だよね。9割の人が挫折していくから。
家庭菜園だったら、農薬、化学肥料を使わないでも気軽にできるけど、それを流通、販売するとなると、いまの日本ではとても難しいんだよね・・・。
一回食べて、美味しければ売れます。
でも、有機のシールが張ってあっても、美味しく無ければ、次は買ってもらえない。
無農薬だから売れる、というものではないのね。特にみかんなどの嗜好品はそれが顕著で、有機JASのシールではなく、「味」が決め手。せっかく苦労して有機のシール張って出したものも、売れなければ、農家はやっていかれない。それを痛感しました。
<自然界の動物たちは、本物を選ぶ名人!!>
小学校の田んぼです。
田植えをする前の日、水を入れて田植えの準備をしていると、野生のカモが田んぼでくつろいでたの。
野生の動物は警戒心が強く、普通は逃げるんだけど、僕が運転するトラクターが近くにいっても動じないの。不思議だよね。自然農法の畑や田んぼにくる野生の動物はとても大胆なの。でも、慣行農法の田んぼにカモかいるのを見たことはない。
なぜ?エサもそれほどないときに、なぜ自然農法の田んぼにくるの?
──それはたぶん、「気持ちがいい」。居心地が良い、からだと思うんだよね。
<有機農法の田んぼでよく見られる現象>
田んぼ一面、クモの巣が夜露で光っているの、分かる?秋口によく見られる場面です。慣行農法ではあまり見られない。
クモが大発生するということは、害虫が大発生してるということ。これが、慣行農法だったら、害虫が大発生しても、クモが少ないから、農薬を使わざるを得なくなる。(生態系のバランスが崩れてしまっているから)
「消える赤とんぼ」なんていう新聞記事のニュースが話題になったことがあったけど、ネオニコチノイド系の農薬(昆虫の神経をやっつけて殺すもの)が問題視されました。昆虫の世界では、大変なことがいま起きているんだよね。でも、EUでは使用禁止されているのに、日本ではいまだに使われている。
もしかすると、人間の発達障害にも、繋がるところがあるね。もはや、人体実験をされているようなものだよ。
例えばドイツは、原発を廃止した。国がやめたんじゃない。国民がそれを支持したから原発をやめた。一方で日本は、これだけ痛い目に遭っているのに、原発をやめようとしない。なぜ?
日本は「経済優先」だから。
国民性を変えるのは、カンタンにはいかないものだね。
地元の小学校では、無農薬のお米作りのほかにも、畑で大根を育ててるんだけど、生徒が大根を収穫するときに、先生が言ったんだよね。「曲がった大根があったら、曲がったのを先に掘り起こして、持って帰りなさい」と。大根は、曲がってても、折れてても、料理するときはどうせカットするじゃない。それこそが食育!!先生が、生徒に教えてくれたことが嬉しかったね。それこそが食育だよ!と。
<2つの田んぼ、なにが違うの!?>
これは、いまから15年位前の田んぼの写真。
右がうちの自然農法の田んぼで、左が、隣のばあちゃんの田んぼ。ばあちゃんは、当時、慣行農法だったけど、除草剤や農薬は使っていなかったの。化成肥料や農協のお米専用の配合肥料だけは使っていたね。
これは、2006年1月4日の写真なんだけど、その日は、雪がどんどん降ってきて、30分ほどでパッとやんだあとの写真。外気温は2度。隣のばあちゃんの田んぼには雪があるのに、うちの無施肥の田んぼには雪がない。田んぼの中の温度を計ると、自然農法の田んぼは5度。ばあちゃんの田んぼは3度。
なぜ、自然農法の田んぼは、地温が高いのか分かる?
人間の体と同じで、微生物が活発だから地温が高い・・・?それもあるんだけど、実はね、
「田んぼに、どれだけ”地温”が伝わっているかどうか?」なんだよね。
どういうことかっていうと、慣行農法とか、化学肥料を施していると、土の表面に「肥毒層」、つまり農薬や化学肥料からできた層が作られる。その層は、冷たくて硬いの。そのせいで、地球の地温が表面に伝わらないのね。だから、それがある限り、本当の自然農法はできない。
逆に、地面がやわらかいということは、「肥毒層」がないということになるんだよね。
それからこの写真を見て。青く見えるのは「すずめのてっぽう」という雑草なんだけど、
比べてみると、うちの無施肥の田んぼの方が青々としてるよね。
隣のばあちゃんの田んぼは、肥料をやってるんだよ。なのに、この差。
分かる?肥料なんて、関係ないの!もともと、関係ないの。
肥料を使えば、作物がたくさん実るっていうのは事実だけど、肥料をやることによって農薬を使わなくてはいけなくなり、悪循環になるの。
慣行農法から有機農法、自然農法に代えて、最低5年以上経たないと、無施肥の田んぼのような土にはならない。それで、ここまできた土に作物を植えれば、農薬や化学肥料をやらなくても、作物が健康に育つんだよね。
キウイを瓶に入れて10年くらい常温に置いて、腐敗実験を行ったところ、写真のような結果がでました。慣行農法のキウイはもうドロドロに溶けています。また、同じ有機農法のキウイでも、肥料を施したものと、無施肥のキウイでは異なります。
これも人間の体と同じ。いくら健康食品や無農薬だからといって、おなかいっぱい食べたらさ、腐敗してしまうよね。
<これからのこと・新規就農について>
畑によって違うから、指導するといっても有機農法は難しいの。ところが慣行農法はね、それができるの。だって生育がわるければ肥料をし、害虫がでれば農薬をかければいい。しかし、有機農法はマニュアルがない。畑によって条件が違うから。
最近は、新規就農で有機農法を始める人が多いのね、農地も、借りやすくなっているし。ところが、経験が少ないと大変です。経験から分析できれば、同じ失敗はしないんだけど、新規の人にとって、失敗は成功のもとではなく、諦めの元になってしまうことが多いからね。
理由をきくのよ。なんで有機農法をやりたいの?って。その理由や思いを聞いてると、そいつが本物になれるかどうかは分かる。やめておけ、と説得するのが7割、8割。おまえそんな気持ちじゃとてもじゃないけど出来ないよって。
技術的な面倒を見てくれる人が身近にいればいいよね。困ったときは、周りの農家に聞き取り調査して、アドバイスもらえればやっていけるかもしれないけど。一般的な農業の技術があって、さらにその上の技術が有機農法には必要だから。有機の農家がなかなか増えない理由の一つです。
いまは、有機農法の農家に対する目が、軽蔑の目から尊敬の目に変わった。それって、とんえもねえ差。だって、昔は有機農法で作物を作る苦労よりも、人の目のプレッシャーに耐える苦労の方が、強かったからね。
奇跡のりんごの木村さんとも交流があるけど、昔から有機農法をやっている人はみんな変わり者なの。ひとくせもふたくせもないと続けてこられなかったの。
有機農法も、最初は、農薬を減らすよりも、化学肥料を減らすことから始めるの。 化学肥料とは、人間でいうと、薬をいっぱい飲んでいたのを、食生活とかを改善しながら、少しずつ減らしていくようなものです。それは、現場、現場で、様子を見ながらやっていく必要がある。
でも、どうしても欲が出るから、減らせないのよ。そこは、経験がないと、変えていけない。
(人間の病気なおしとおんなじですね・・・)
さらに、無農薬で無肥料の自然農法。俺に言わせれば、「これ以上の農法はない。」
このやり方はね、誰でも、どこでもできる技術じゃありませんよ。
基本的には、これができるのは、その土地の気候風土に、その植物が合っているか?
その見極めが必要です。その土地で、色んな物を作っていて、始めて出来るものです。
農家が、有機農法、自然農法に挑戦できない、それがいまの日本の現状だよね。
消費者と生産者のもっている情報にもズレがある。
農家は、野菜を作るにあたり、生活がかかっているから。。。
リスクを負ってさらに上のレベルに行くか?
肥料をやめてまで、自分の作っている作物を極めたいと、思わなければできないよ。
僕の場合は、たまたま、「本物の農産物を作ってみたい」という思いがあったからさ。
でも、まだまだ日本の国民は、消費者は、求めてねえ訳だよ。ごくごく一部の人が求めているわけであって、大多数がいまのレベルでいいと思っている。
やっぱり、これは売る側、農家側だけのことではない。
全体のレベルがあがんなきゃ、増えてかないよね。
最後に石綿さんより──
いま農家が農地として取り組んでいることが、環境保全になり、その中で更に有機農法をする我々の責任と役目は、ますます重要になってくると感じています。
これからも、有機農法が特別な農業ではなく、皆がやる、普通の農業になることを信じて、仲間と共に、消費者の皆さんに喜んでもらえる農産物づくりに頑張って参ります。
石渡さんのお話を聞いて───
石綿さんご自身が、慣行農法から有機農法に切り替え、さらに、ご自分での畑での実験と経験から、無農薬・無肥料での栽培が可能であると判断し、40年以上も続けてこられたと知りました。
石渡さんを訪問した際には、2時間以上終始、話が尽きず、もっと、もっと話し足りないというほどでした。農業というひとつの道を究めてこられた方の言葉は、その言葉の端々に説得力と自信が感じられました。
有機農法(自然農法)は、ただ有機の作物を作るだけではありません。土、水、生き物、国土、自然環境を保全する役割もあります。しかし、農業従事者の高齢化や、新規就農での有機農法の継続は、今の日本では難しく、さらなる農家への支援が必要です。
いま、私たちができること。国まかせではなく、一人、一人がどんな選択をするのか?どんな行動をするのか?現場の声を聞くことで、農家と消費者、立場は違えども、同じ未来を夢見る「同志」として、共に、明るい未来を目指して行動をしていきましょう。